イベントで道路使用許可が不要とされた事例と許可基準

広告代理店やイベント制作会社にとって、イベント実施に際して道路にスタッフを配置するには道路使用許可を取得するのが「当たり前」だと考えている方も多いでしょう。
事実、多くの場合に許可が必要だと思われます。

ところで、先日

東京23区のとある管轄の警察署に、ある行為をするのに許可を取れるか照会したところ、許可が不要との回答がありました。

不要と回答のあった行為は次のようなものです。

(照会内容)
ごく少人数の招待制の企業イベントにおいて、最寄駅から会場までの数か所にA3サイズの手持ち誘導サインを持って案内する行為は道路使用許可は不要と思料するが、差し支えないか。

警察署が不要と判断した理由はいくつかあると思いますが、ここであらためて、道路を使用する際になぜ道路使用許可が必要なのか、具体的な根拠条文を紹介しますので、イベント制作会社の方は、ぜひご参考にしてください。

道路における禁止行為(絶対的禁止行為)

道路交通法第76条では、何人もいかなる場合にあっても、交通の妨害となるような方法で物をみだりに道路に置いたり、道路上の人や車を損傷させるおそれのある物を投げるなどの行為を行うことは禁止(絶対的禁止行為)されています(警察庁WEBサイトより)。

その他にも、76条4項7号で
前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が、道路における交通の危険を生じさせ、又は著しく交通の妨害となるおそれがあると認めて定めた行為

と、ある通り、各都道府県公安委員会の定める道路交通規則(名称は各都道府県によります)にて、禁止行為が定められています。
東京都交通規則17条には、道路にごみを捨てたり、車両から身体を出す行為、みだりに発煙筒、爆竹その他これらに類するものを使用することなどが禁止されていますが、概ねどの都道府県も似たような内容になっています。

特徴的なのが、例えば青森県では、
屋根雪をおろしたまま放置し、又は除雪若しくは雪を押し出す等の方法により著しく交通の妨害となるべき行為をすること(青森県道路交通規則22条2号)。

沖縄県では、
交通の頻繁な道路において、1人で2頭以上の牛馬をひくこと(沖縄県道路交通法施行細則17条2号)。

など、地域の特性により禁止されていることもあります。

相対的禁止行為と道路使用許可制度

このように、道路の本来の用途に即さない道路の特別の使用行為で、交通の妨害となり、又は交通に危険を生じさせるおそれのあるものは、一般的に禁止されています。

このうち、道路の使用それ自体に社会的に価値のある行為(相対的禁止行為)は、警察署長の許可により、一般的に禁止されいる行為を、一定の要件のもと、この禁止の網を解除することができます。この警察署長の許可が道路使用許可となります。

つまり、道路にごみを捨てたり、爆竹を鳴らすことは禁止ですが、社会的に価値のあるものは要件さえ備えれば許可するよ、ということです。

許可が必要な行為は、道路交通法77条1項1号~4号に規定されています。

(道路の使用の許可)
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。
 道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人
 道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者
 場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者
 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

道路交通法77条1項4号

イベントにおいて、許可が必要な行為の多くは法77条1項4号です(通称4号許可)。イベントの規模や、内容によっては2号や3号が該当しますが、2号や3号のように分かりやすいもの以外は、まず4号許可が必要かどうか検討することになります。

とはいっても、4号に書かれている「一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたもの」とは具体的に何なのかは、この条文からはわかりません。

この「公安委員会が~定めたもの」とは各都道府県の道路交通規則に載っています。76条4項の禁止行為と同じ建て付けです。

例として東京都道路交通規則を載せます。

(道路使用の許可)
第18条 法第77条第1項第4号の規定による警察署長の許可を受けなければならない行為は、次に掲げるとおりとする。
(1) 道路において、祭礼行事、記念行事、式典、競技会、仮装行列、パレード、街頭行進その他これらに類する催し物をすること。
(2) 道路において、旗、のぼり、看板、あんどんその他これらに類するものを持ち、若しくは楽器を鳴らし、又は特異な装いをして、広告又は宣伝をすること。
(3) 車両等に広告又は宣伝のため著しく人目をひくように、装飾その他の装い(車両等を動物、商品その他のものにかたちどることを含む。)をし、又は文字、絵等を書いて通行すること。
(4) 道路において、ロケーション、撮影会その他これらに類する行為をすること。
(5) 道路において、拡声器、ラジオ、テレビ、映写機等を備え付けた車両等により、放送又は映写をすること。
(6) 演説、演芸、奏楽、放送、映写その他の方法により、道路に人寄せをすること。
(7) 道路において、消防、水防、避難、救護その他の訓練を行なうこと。
(8) 交通の頻繁な道路において、寄附を募集し、若しくは署名を求め、又は物を販売若しくは交付すること。
(9) 道路において、ロボットの移動を伴う実証実験、人の移動の用に供するロボットの実証実験又は自動運転技術その他自動運転の実用化のために必要な技術を用いて車両を走行させる実証実験をすること。

上記は東京都道路交通規則ですが、各都道府県の道路交通規則は、ほとんど同じ内容です。
該当する地域の道路交通規則を調べたいときは、「〇〇県法規集」で検索して、その中の「警察」→「交通」から道路交通規則(各都道府県により若干の名称の違いあり)のだいたい17条あたりにありますので、そちらを参照してみてください。

ちなみに、路上ライブは、東京都道路交通規則でいうと18条の6号に該当すると考えられます。
たまに、路上ライブは道路交通法77条に書いてないから、許可は不要で本来は合法である、という論調のブログ記事を見かけますが、少なくとも東京都においては原則必要だと思われます。

許可基準

道路使用許可が必要な行為を行う場所を管轄する警察署長は、道路交通法第77条第2項の規定に基づき1号から3号のいずれかに該当する場合は許可をしなければなりません。

①当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれがないと認められるとき。
②当該申請に係る行為が許可に付された条件に従つて行なわれることにより交通の妨害となるおそれがなくなると認められるとき。
③当該申請に係る行為が現に交通の妨害となるおそれはあるが公益上又は社会の慣習上やむを得ないものであると認められるとき。

条文上は「許可をしなければならない」となっています。上記の3つに該当する場合は、警察署長に許可・不許可の裁量の余地はありませんが、「交通の妨害となるおそれ」については警察署長に裁量があるとされています。

また③にあるとおり、妨害のおそれがあっても公益上または社会の慣習上の必要性との比較衡量によって許可が下りる可能性があります。

たとえば、路上販売や広告宣伝等の個人や私企業の純然たる営利活動での道路使用は、公益性も社会の慣習上の必要性が無いのは明らかですから、許可は下りにくいでしょう。

対して、地方公共団体が地域活性のために予算を支出した商店街イベントや、国の機関が後援しているイベントなどでは、公益上の観点から、妨害の程度との比較考量から許可が下りやすくなるかと思われます。

警察署に必ず確認を

以上のように、地域の特性、イベントの内容・規模などによる裁量、あるいは交通量などの場所的条件など、一律に許可の要・不要を判断することはできません。
事前に必ず、管轄警察署の交通課(交通規制係)に時間的余裕をもって相談するようにしましょう。

許可が不要と言われた場合に許可を取ることはできるか

許可が不要と言われたけど、許可証が欲しい。
イベント事業者には、こういったニーズがあったりもします。
私も現場ディレクターとして、街頭サンプリングや、会場外誘導に携わっていた時に「道路使用許可は取ってるのか?」と一般の方からつめられた経験がありました。
こちらとしては、警察署に不要との確認を取っているので、正当性はあるのですが、主催側の企業としてはイメージやコンプライアンス上、不要なので持っていませんと強気に出ることはできません。実際、説明しても納得されないこともありました。

結論から言うと、不要との回答を得ても、許可自体は取得できると思われます。少なくとも冒頭の例では取得できました。
ただし、手数料は当然必要なので、イベントの規模と予算から検討するのがよいでしょう。