合同会社設立時に考慮しておきたい事

近年、合同会社の設立件数が増えてきています。今では新規設立の3社に1社が合同会社という統計も出ています。

合同会社が増えてきた理由として、合同会社の知名度が上がったことにより、会社設立の検討時の段階から合同会社を選択肢に入れて、メリット重視で設立に至るということが多いのではないかと思います。

一般的に合同会社のメリットとしてよく挙げられるのが
①設立費用が安い
②経営陣に任期がなく決算公告が不要など、ランニングコストが低く済む
③株主総会が不要で迅速な意思決定ができる
④損益分配を自由に設定できる

といったことがあります。

対して、デメリットとしては
①株式上場できない
②定款変更は原則、社員の全員一致
③資金調達の方法が限られる
といったことがよく挙げられます。

これらは一長一短であり、会社の規模・事業内容・経営陣の人員体制により、メリットにもデメリットにもなり得るのですが、合同会社といった持分会社には株式会社よりも定款自治が大幅に拡大されていますので、定款作成時に将来を見越した設計をすることにより、メリットの享受と、ある程度のデメリットの回避は可能です。

しかしながら、こういった法的な話とは別に、実際に事業を行っていく上での実務上の話として

資本金の増加について触れておきたいと思います。

会社が金融機関から融資を受けるときや初めての相手と取引をするとき、金融機関や取引先は、会社の資本金を調べることが現実問題としてあります。

資本金10万円で会社を設立したとしましょう。資本金は登記されますので、会社がホームページに資本金を公表していなくても、取引の相手方としては、数百円払えば資本金を調べることができます。金融機関では、登記事項証明書を求めてくることもあります。
会社としては事業が順調で利益も出しているので…と言っても、資本金増加の手続きを行って登記しなければ、取引慣行上不利になってしまう可能性があることを否定できません。

また、業種によっては許認可の基準に資本金の額が要件とされているものもあります。

【例】
建設業(一般)500万円~
旅行業 300万円~3000万円
一般労働派遣業 1000万円
など

そこで、利益が出ているので、利益剰余金を資本金に充当しようと考えたとしても、実は、合同会社(持分会社)は利益剰余金を資本金に組み入れることはできません(会社計算規則30条)。

株式会社であれば、資本金・準備金・剰余金の間の移動は原則可能です(細かく分けるとできないものもあり)。そもそも、合同会社には準備金がありません。合同会社には、いわゆる「準備金の資本組み入れ」が無いのです。

では、合同会社が増資、資本金の額を増加するにはどうしたらいいのでしょうか?

①資本剰余金を資本金に組み入れる

株式会社は出資された全額を資本金にする必要はなく、払い込みがあった金額の2分の1までを準備金として計上できます。
合同会社には準備金の概念がありません。合同会社は資本金として計上しなかった部分は全て資本剰余金となります。極端な話、資本金0円、資本剰余金1億円ということも理論上可能です(資本剰余金は登記されません)
そして、頃合いを見計らって(良きタイミングで)資本剰余金を資本金に組み入れて登記をすることになります。

この、資本剰余金の資本組み入れは、新たな出資ではありません。純資産の計数上の移動です。そしてこの組み入れを行うには定款で別段の定めがないかぎり業務執行社員の決定による必要があります。業務執行社員が複数いる場合には過半数の決定によることになります。

②既存社員が新たに出資する

ここで言う社員とは従業員の意味ではありません。出資者=株式会社で言うところの取締役です。
既存社員が新たに出資を行うには、定款に別段の定めがないかぎり総社員の同意と定款の書き換えが必要になります。なぜなら、社員の出資の価格は定款の絶対的記載事項であり、定款変更には原則、総社員の同意が必要になるからです。

③新たな社員を加入させる

合同会社は、株式会社のように募集株式を発行して出資をしてもらうという事ができません。株式の発行ではなく、新たな社員(出資者)を加入させるか上記②の方法によることになります。
新たな社員の加入には②と同様、定款に別段の定めがないかぎり総社員の同意と定款の書き換えが必要になります。理由は同じです。
そして、②③ともに、実際に払い込まれた(給付された)金額のうち、いくらを資本金に計上するかは業務執行社員の決定によることになります。

まとめ

以上ように、合同会社が増資を行うには、株式会社と違うアプローチになるので注意が必要です。既存社員が新たな出資をするスキームは一人会社であれば、さほど問題ないかと思われますが、社員の報酬は役員報酬とされていますので、税務上、実際に払い込める金額が目減りする可能性もあります。
また、手続き上も「定款に別段の定めがないかぎり」と多く出てきた通り、設立時の定款の設計によっては、手続きを簡単にも難しくもできるため、合同会社の設立には先を見越した定款作成が大事だと思います。