株式会社の機関設計とルール

旧商法と現行会社法

平成18年に会社法が施行されて久しいですが、それまでの旧商法時代は会社を作るのに取締役が3名以上必要で、機関として取締役会・代表取締役・監査役を置くことが規定されていました。
そこで、親族や知人に名前だけ借りて登記をし、実態に合っていない名目的役員とのトラブルや、役員の責任において債権者と問題となってしまう場面もありました。

現行の会社法では、企業の規模や実情に合わせた機関設計の選択が可能となり、以前より自由度があると言えます。例えば、(代表)取締役1人と株主1人(同一人物でもOK)での設立も可能です。

機関の定め方

株式会社の機関設計は、後から変更可能です。しかし、変更には定款を変更する必要があり(会社法326条2項参照)、定款変更には原則、株主総会の特別決議が必要です(会社法466条、309条2項11号)。

株式会社が必ず設置しなければならない機関は「株主総会」と「取締役」です(会社法326条)。
それ以外の機関を置くには定款に「当会社は取締役会を置く」や「当会社は監査役を〇名置く」などの条項を定める必要があります。

これらは登記事項であるため変更の度に登録免許税を納めなければなりません。司法書士に頼んだらその報酬もかかります。

このように、何度も変更するのはコスト的にも手続き的にも負担がっかてします。
また、機関設計の選択肢が広がったとはいえ、なんでもかんでも自由にはできません。例えば、取締役会を設置していない非公開会社が公開会社になるには取締役会を設置しなけらばならず(会社法327条)、株主総会の特別決議で定款を変更し、役員が1人しかいなかったら新たに2人以上の役員と監査役(または委員会設置会社になる)を選任し、株主総会の承認と就任承諾をを得る必要があります。役員報酬の人件費がもったいないから、公開会社にはするけど、監査役や委員会を置きたくないということはできません。更に、効力発生後2週間以内に登記もしなければなりません。

したがって、設立時の定款作成はもちろん、会社の拡大・縮小などタイミングも重要になってきます。

とはいえ、過去に会社経営のご経験や、企業法務に携わったことがある方は別として、初めて会社を設立する方にとっては、各機関の役割や機関設計のルールがスラスラ言える人は少ないでしょう。
そこで、以下で各機関の設置ルールを簡単に解説いたします。

株主総会

全ての株式会社に必ずある機関です。株式会社という商号がある会社で株主総会が無い株式会社はありません(実際に開催しているかどうかは別です。機関として必ずあります)。

取締役

こちらも株式会社に必ずある機関です。最低1人は必要(会社法326条1項)。取締役会非設置会社においては1名でも構いませんし2人以上いても構いません。

取締役会

公開会社・監査役会設置会社・委員会設置会社は取締役会を必ず置かなければなりません(会社法327条)。非公開会社は任意で設置できます。そして取締役は最低3人いる必要があります(会社法331条5項)。
そして大事なのが、取締役会を置くと株主総会の権限が制限されます。株主総会はもともと万能な機関なのですが(会社法295条1項)、取締役会を設置することにより、その決議事項が定款及び会社法に規定されたものに縮小され取締役会の役割が大きくなります(同条2項)。
取締役会非設置会社は株主総会が、取締役会設置会社は取締役会が経営者会議になるというイメージです。

監査役

非公開会社では任意に設置できますが、取締役会設置会社(会計参与を置く非公開会社かつ非大会社、委員会設置会社は除く)は設置しなけれまなりません(会社法327条2項4項)。
監査役の業務は会計監査と業務監査があり、取締役の業務執行を監査・監督します。また解任にも株主総会の特別決議が必要になるなど、監査役がきちんと仕事ができるように会社法の規定で担保されています。
非公開会社(厳密には監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除き)では監査役の監査の範囲を会計監査に限る定めをすることができます。これは、定款で定める必要があり、登記事項でもあります(平成27年の会社法改正に伴う経過措置は考えないとして)。
また、監査役を設置すると株主の会社の監視機能が縮小することがあることも注意が必要です。

会計参与

会計参与は、取締役と共同して計算書類を作成します。税理士(法人)、公認会計士、監査法人といった有資格者しかなれません。どの機関設計でも任意で設置することができます。
会計参与は、役員です。役員なので、任務懈怠責任等の責任を負っています。実務では、会計参与を置く会社は少なく、あまり普及していないようです。

監査役会

すべての監査役で組織される合議体です。3人以上の監査役で構成され、監査役の半数以上が社外監査役である必要があります。取締役会がなければ監査役会を設置できません。
公開会社かつ大会社では必ず監査役会を置かなけらばなりません(監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社を除く)。監査役会については、まだまだ論点がありますが、個人事業主や小規模事業者が会社を設立するにあたり最初から設置する事は、極めて少ないと思われますので、以下の会計監査人、指名委員会等設置会社、執行役、監査等委員会設置会社同様、ここではこの程度の説明に留めておきます。

会計監査人

会計監査人は株式会社の計算書類など「会計」の監査をする「外部」機関です。外部機関ですので役員ではありませんし、チェックも厳しいです。公認会計士や監査法人の有資格者しかなれません。
大会社は会計監査人を置かなければならず、会計監査人設置会社は監査役、監査等委員会または指名委員会等を置かなければなりません。

指名委員会等設置会社の委員会

指名委員会等設置会社とは平成14年に新設された、アメリカ型の会社です。取締役会の中に指名委員会、報酬委員会、監査委員会があり、各員の過半数は社外取締役で構成されます。取締役の任期は1年と短く、各員が人事と報酬を握っていて、経営者側からすると非常に厳しい体制になっております。
機関設計の自由度は全く無と言っても過言ではなく
「株主総会+取締役会+執行役+指名委員会・監査委員会・報酬委員会+会計監査人」に会計参与を加えるかどうかの2パターンしかありません。
指名委員会設置会社の数は少なく、2023年8月の時点では91社だそうです(JACD報告より)。

執行役

執行役は指名委員会設置会社の業務を執行する機関です。取締役会から選任されます。執行役以外の取締役は業務の執行の決定と監督を行うことで、業務の執行と監督が厳格に分離されています。

会社法上の執行役とは上記のとおり指名委員会設置会社の業務執行機関です(会社法418条2号)。
日本では指名委員会設置会社の数はそれほど多くありませんが、「執行役員」という言葉に聞き覚えがある方が多いかと思います。
実は、我々がよく耳にする「執行役員」という機関は会社法上ありません。執行役員は会社内でのいわゆる肩書です。役員(取締役・監査役・会計参与)ではない従業員に、この執行役員という肩書がついていることもありますし、取締役についてることもあります。
従業員は雇用契約として給与を、取締役は委任契約として報酬を得ます。対内的にも対外的にも適用される法律が違うことも考慮に入れて執行役員制度を導入するか検討したほうがよろしいかと思われます。

監査等委員会

平成27年に監査等委員会設置会社が新たに導入されました。アメリカ型の指名委員会設置会社は、日本の企業風土からあまり浸透しませんでしたが、監査等委員会設置会社はかなりのハイスピード増えていて上場企業での監査等委員会設置会社へ移行割合は3割を超えました。
監査等委員会の機関設計は
「株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人」に会計参与を加えるかの2パターンです。取締役の任期は1年ですが監査等委員である取締役は原則2年となっています。

まとめ

会社法の株式会社の機関の章にある機関設計のルールを見てきましたが、個人事業主から株式会社を立ち上げる際

「株主総会+取締役1名」

でスタートされる方が多いかと思います。
そうではなく、最初から複数名で起業したり、将来の明確なビジョンがある方は、発行する株式の種類と絡んで機関設計について知っておくことは、経営者として損はないと思いますので、不安な方は、どうぞお気軽にご相談ください。